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知見・論考

なぜPLM改革は成功しにくいのか

PLM
注目されているPLM
PLM(Product Lifecycle Management)が提唱されて久しく経ちます。PLMは、もともと1980年代に提唱されたPDM(Product Data Management)から派生しました。PDMはCAD図面やBOM(Bills of materials)といった製品設計情報の一元管理を指します。PLMは、これを製品ライフサイクル(企画~廃棄または導入期~衰退期)を通した収益最大化(図参照)のための種々情報管理へと拡張する形で、1990年代に誕生しました。その後、2000年代のPC普及に伴い、膨大な設計情報を企業/部門間で厳格に一元管理することが必要な航空/自動車/家電等の製造業で主に推進されてきました [1]。既に誕生から20~30年の歴史があることになります。
さらに最近、市場の急速な変化やテクノロジーの進化に伴って、以下のような理由からPLMを導入または刷新する機運が高まっています。

① 急速な市場環境変化に迅速に対応したい
自動車・設備機器・家電等業界に代表されるように、ニーズの変化/多様化が益々激しくなっており、製品差別化やコスト削減、ニーズに応じたカスタマイズ対応、事業ポートフォリオの迅速な組み換えにおけるダイナミックかつ柔軟な収益管理が求められています。

② 膨大化する情報をより効率的に管理したい
電気自動車に象徴されるように、従来“メカ”であった製品がITを取り入れて高度化・複雑化しました。それにともなって製品ライフサイクルに渡る情報量が膨大化しているため、システマチックな情報管理が必要とされています。

③ PLMツールの進化に追随したい
上記ニーズに合わせ、PLMツール自体もクラウド活用等進化しています。2018年の経済産業省のDX(Digital Transformation)レポート [2]が報告されて以降は、DXテーマとして導入検討している企業も多いことでしょう [3]。
PLM改革=PLMツール導入 ではない
しかし、残念ながら多くのPLM改革は、PLM改革=PLMツール導入という誤解/短絡的理解の下に推進されています。「どんな/いかにツールを導入するか」「いかにツール導入効果を出すか」といった、あたかもツール導入ありきで検討されている事例が後を絶ちません。確かに、PLMツールが便宜的にPLMと通称されるほど、PLMにとってツールは必要不可欠と言えるくらい利用価値の大きいものです。しかし、ツールは飽くまで手段であり、目的に先立つものではありません。公共事業になぞらえるなら、ツール導入ありきで改革推進することは、市民の暮らしやすさや街の機能の向上のために何が必要かを考えもせず、道路や橋を作ろうとするようなものです。
実際、「製品ライフサイクルを通した収益最大化」という本来の目的を踏まえずに、安直にツール更新により設計⇔製造間の出図図面やBOMの受け渡し効率化しようとするケースはありがちです。単に部門間の情報連携作業の効率化のために便利ツールを導入しようとすると、大した効果は望めません。むしろ、高額なツールの費用対効果を関連部門の業務効率化のみで賄うことは難しく、成功実感が得にくくなります。PLMの本来の目的を踏まえなければ、PLMツールは宝の持ち腐れになりかねないのです。本来は、たとえば、製品ライフサイクルを通した収益最大化を図る→垂直立ち上げ(製品の一発完動)が必要→設計上流段階での製造要件の取り込みが必要→設計⇔製造間の情報連携インフラが新たに必要、という明確な課題設定とロジックが必要です。
PLM改革を成功させるには
前項のように単なるツール更新に陥りがちなPLM改革ですが、ではどうすれば成功に導けるでしょうか。「PLMの本来の目的に立ち返る」ことを先述しましたが、重要なポイントはそれだけではありません。弊社では、PLM改革が成功しにくい原因はそもそもPLM改革の要否/方向性/評価を左右する「意思決定の在り方」にあると捉え、意思決定に関するPLM改革の成功要因として以下の3つが重要だと考えています:

(1) 明確な目的設定
(製品ライフサイクルを通した収益向上という大目的とその中での力点の置き方)

(2) 製品ライフサイクル全体を俯瞰できる責任者

(3) 製品ライフサイクル全体での収益評価
成功の手応えを感じられないPLM改革では、「費用対効果がはっきりしない」「現場の効果実感が伝わってこない」といった“消化不良感”を訴える声がよく聞かれます。これらの声も、PLM改革の成否を「費用対効果」で判断するという意思決定の在り方の反映と言うことができます。これを上記3要因に当てはめると以下のような論点を浮き彫りにできます:

(1) 製品ライフサイクルを通した収益最大化のための最大の課題を抽出し、
そのための対策が検討できているか、単なる一部門(設計や技術管理)視点での効率化ツール導入になっていないか

(2) 製品ライフサイクル全体を俯瞰した意思決定をできる責任者がいるか

(3) 製品ライフサイクル全体での費用対効果を評価できるか、費用対効果は予測可能か
詳しくは、次回以降に順を追って詳しく論じます。その後、(3)の成功要因を満たすためのプロジェクト評価のポイントや、今後のPLMの展望を論じて行きたいと考えています。
参照文献
[1] https://xtech.nikkei.com/dm/article/COLUMN/20111222/202914/