株式会社メディオクリタス

Mediocritas, Inc.

150 0012 東京都渋谷区
広尾1丁目131
フジキカイ広尾ビル

電話
03-5488-7277(代表)
FAX
03-5488-7278
facebook © 2021 Mediocritas, Inc.

知見・論考

従来型の品質マネジメントの限界

NQ
「サンプルチェック型のアプローチ」に頼って来た従来の品質マネジメントは、製品開発の複合化・高度化に伴って限界に達しています。弊社が提唱する“NQ”は、「全点モニタリング型のアプローチ」を新しいテクノロジーを利用して実現させ、バリューチェーン全体に適用させる構想です。“NQ”により、効果的・効率的な品質問題の流出阻止と未然防止が可能になります。
従来型の品質マネジメントの方法論
品質マネジメント [1]は、時代とともに発展しながら、日本の経済的地位の確立に大きく貢献して来ました。日本における品質管理は戦後に大量生産のために統計的手法を取り入れたSQC(Statistical Quality Control)として主に製造現場で始まりました。その後、社内バリューチェーン全体に拡げてTQC(Total Quality Control)へと進展、米国でTQM(Total Quality Management)として改良された後、さらにグローバル化を受けて品質マネジメントの標準化を図るISO9001へと発展しました。その中で日本は高度成長を果たし、日本の品質マネジメント、日本製品の品質は高く評価されて来たことは、今さら言うまでもないほどです。
品質マネジメントの思想は変遷したものの、本質的に変わっていない側面もあります。現場における「サンプルチェック型のアプローチ」という方法論は、SQC時代以来重宝され続けているのです。サンプルチェック(抜き取り検査)とは、生産段階においては、製品をロットで分け、ロットからサンプルの抜き取り検査を通して問題検出する方法です。本来、5M(Material、Machine、Man、Method、Measurement)のバラツキを前提として品質問題流出を無くすには、全数検査が理想的ですが、それでは時間もコストも多大になります。そこで、検査ゲートを設け、そこで製品の一部を抜き取って検査を行うサンプルチェックなら、時間とコストを抑えつつ、統計的に品質問題の流出を極小化させることができるのです。
サンプルチェック型アプローチの特徴は、部分的・断続的・事後的であることです。「部分的」とは抜き取りチェックを指します。網羅的な全数検査ではなく、一部から全体を推測するということです。「断続的」とはゲートを設けたチェックを指します。常時の監視ではなく、決まったタイミングでのみチェックするということです。「事後的」とは問題対策型を指します。製品完成前の問題予測ではなく、製品完成後の問題検出ということです。もっとも、サンプルチェックによる問題検出後には、単に問題流出阻止のために問題を除去するだけでなく、未然防止にも繋げられます。例えば、QC七つ道具や種々の統計的手法を駆使して原因究明を図ったり、そうして得た知識・ノウハウを、チェックリストや過去トラといった問題の未然防止策に繋げたりしています。しかし、そうした問題の未然防止活動も、きっかけは飽くまで製品完成後のチェック結果になっています。
サンプルチェックを「部分的・断続的・事後的な品質チェック」と捉え直すと、サンプルチェック型のアプローチはバリューチェーン全体に共通する方法論と解釈できます。言い換えると、開発/生産段階を問わず適用できる方法論ということです。例えば、開発段階におけるサンプルチェックとは、DR(Design Review)に代表される審査ゲートを設け、そこで構想設計~詳細設計~試作の各段階の品質の熟成度・実現度を、チェックリストに基づいて確認することが当てはまります。実際の開発現場では、FMEA(故障モード影響解析)を活用した設計や製品の一部分のシミュレーションや試作評価等を通して、設計の確からしさを部分的に検証し、問題があれば原因究明・対策へ繋げています。こうした開発における「品質チェック」は、生産段階のサンプルチェックとよく類似していると言えるでしょう。
従来型品質マネジメントの限界
しかし、近年、従来型の品質マネジメントは限界に達しています。製品がエレ・メカ・ソフト技術を融合させて複合化し、バリューチェーン上の各段階が高難度化することにより、サンプルチェック型のアプローチでは品質問題に収拾が付かくなって来ているのです。開発・検証段階では、顧客要求の複雑化により、要件~機能~仕様へと落とし込むことが難しくなり、要件・機能漏れが発生しやすくなっています。そして、開発・検証項目の増大と、エレ・メカ・ソフトの縦割り化により、技術間の不整合や開発・検証漏れが起きやすくなっています。生産段階でも生産・検査の高難度化による不具合発生が起きやすくなっています。加えて、工程内不良や市場品質不良の発見によって、問題発生原因の対象工程における検査が追加されることが多々あります。これによってリードタイムの長期化を引き起こしています。
また、過去のノウハウが却って足かせになっています。これまでにサンプルチェック型のアプローチを通して蓄積してきたチェックリストや過去トラは、膨大化して却って利用し辛くなり、メンテナンスも大変になっています。ISOに至っては認証取得のために設けた規則や帳票・資料類の管理が負担となり、形骸化しているという指摘はよく言われている通りです。
サンプルチェック型から全点モニタリング型のアプローチへ
従来型の品質マネジメントの限界を超えるヒントは、その源流であるサンプルチェック型のアプローチから見直すことにあります。サンプルチェック型のアプローチは、人間の健康管理で言えば健康診断に相当します。つまり、健康診断は病気の有無を定期的(断続的)に一定の対象者・検査項目(部分的)で、病気になっていないか(事後的)を確認します。このような健康診断は重病化を防ぐという意味で重要です。しかし、残念ながら病気が見逃されることもあれば、既に手遅れになっていることもあります。これは品質問題流出が防ぎ切れていない従来型の品質マネジメントの状況とよく似ています。
最近では、人間の健康管理は、網羅的・漸次的・事前的なアプローチへとシフトしつつあります。前回の記事 [2]で紹介したように、スマートウォッチの登場によって、体調モニタリングが可能になっています。定期的に病気の有無を確認するのではなく、心電図や血圧を常に監視(漸次的)することで、病気の兆候をリアルタイムで掴む(事前的)という方法です。モニタリング可能なパラメータは、今後、センシングテクノロジーの発達に伴ってユーザー要望に応じて増えていく(網羅的)と期待されます。
網羅的・漸次的・事前的なアプローチ(以下、「全点モニタリング型のアプローチ」)は、品質マネジメントにとっても理想的です。網羅的・漸次的・事前的なら、従来の部分的・断続的・事後的なチェックに比べて品質問題流出を防ぐことが可能となります。生産段階で言えば、抜き取り検査(部分的)から全数検査(網羅的)、検査工程でのチェック(断続的)から生産ラインでの常時監視(漸次的)、発生した問題の検出(事後的)から問題発生の予測(事前的)な方法へと変えるということです。
弊社が提唱する“NQ”は、全点モニタリング型のアプローチを実現させる新しい品質マネジメント体系のコンセプトです。理想的なはずのモニタリング型のアプローチが従来採用されて来なかった要因は、人間的な制約(以下「人間制約」)にありました。人間の処理能力の限界のため、網羅的・漸次的・事前的なやり方では多大な時間とコストが必要になってしまったのです。しかし、“NQ”では、新しいテクノロジーの活用により、人間制約を超えて全点モニタリング型のアプローチを可能にする構想です。
NQの全点モニタリング型のアプローチは、生産段階だけでなくバリューチェーン全体に適用されます。開発・検証段階では、複雑化した顧客要件をシステマチックに抜け漏れなく抽出します。そして、顧客要件から機能・仕様への落とし込みの進捗を、開発中のシミュレーションデータ等を使ってモニタリングします。また、シミュレーションにおいては網羅的な条件探索を行います。こうしたバリューチェーン全体での全点モニタリング型のアプローチにより、効果的な問題の流出阻止と未然防止を実現させます。その際、新しいテクノロジーは、これまで人間が行っていた作業を抹消・代替・標準化することで、効率化も図れます。次号ではNQのコンセプトを詳しく解説する予定です。
参考文献および補足
[1] 本稿で品質マネジメント(Quality Management)とは、お客様が望む品質を達成し提供するためのプロセスないし活動であり、販売に向けた品質コントロール(Quality Control)と販売後の品質保証(Quality Assurance)を包括しています。品質管理には広義のQuality Managementと狭義のQuality Controlの意味があり、混同しやすい概念です。そこで、本稿ではQuality Management を品質マネジメント、Quality Controlを品質コントロールと呼び分けます。
[2] 「テクノロジーの進化がもたらす品質保証体系の変容」